■国宝「松林図屏風」その魅力と謎
みる人すべてを魅了する松林図屏風は、さまざまな謎に満ちた作品でもあります。その魅力とともに松林図がはらむいくつかの謎に迫ります。
【等伯の筆の技と構成力】
画面に近づくと後ずさりするような迫力の筆づかい。その荒々しい筆づかいが、遠くからみるとうっすらと浮かび上がる松林の情景を生み出しています。 四つほどの松林のグループが、緻密に計算されて配置されています。松が立ち並ぶ地面は、画面の外に伸びていき、ある位置に立つと、みる人が松林のなかにいるかのような感覚を得ることができます。
墨の濃淡と粗速の筆のタッチだけで、霞に包まれた松林の情景が表現されています。日本の水墨画の最高峰といわれる所以です。
【完成作か、下絵なのか】
通常屏風は、五枚位の紙を縦に継ぎ合せて一つの扇(屏風の折れ目と折れ目の間の面)の画面となります。その継ぎ目は、ふつう横一線に揃うように貼られていきます。しかし、松林図屏風では継ぎ目が乱れていることから、画面の紙は草稿用のものであり、この松林図は下絵ではないのかという意見が出されました。
【紙の質と墨の質】
紙はふつうの屏風絵のものより粗末であり、その点からも松林図屏風が下絵であるという仮説が補強されます。しかし、松を描く墨はつややかで、本画(完成作)に用いられるほどの最高級の質の墨が使われており、下絵と即断できません。
【どんな筆で描いたのか】
荒々しい松の葉を描いた道具がどのようなものであったか、よくわかっていません。連筆−筆を重ねたもの、藁をたばねて筆としたもの、あるいは筆先が固い蒔絵で使われる筆のようなもので描いたなど、さまざまな意見があります。
【どこを描いたのか】
等伯の故郷、能登半島の浜辺にある松林は、まさに松林図屏風の松林にみえます。等伯の心象風景が描かれたものなのでしょうか。しかしみる人によって、天橋立、三保の松原、さらにはその人自身の記憶の風景とリンクします。
【どこからみた風景なのか】
山頂に雪が積もる遠山の裾野からみた風景です。日本古来の松を描いた絵といえば浜松図で、画面の中央に水景色が広がるものが多いです。この絵に水辺はなく、つまり浜から松林をみた景色なのです。
【松林のある時間】
雪が積もる山が遠くに薄っすらと描かれている。季節は冬へと向かう晩秋でしょうか。それとも雪解けの春でしょうか。
朝靄がかかり、松林を流れる空気は冷たく感じられ、朝の情景のように感じられます。
【後から捺(お)された判子】
屏風に捺された印は、ほかの等伯の作品にみえるものとまったく違うものです。後代、誰かが画面に捺したものと考えられています。
【屏風の配置】
印が捺された位置を左右の隅に置くのが、屏風の一般的な配置方法であり、松林図屏風も通常、そのように展示されます。しかし、左右の屏風を入れ替えても、松林の情景は広がっていきます。 |