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2008年4月に「映画の達人〜Filmania〜」としてスタートし、引き続き2009年4月より「映画の達人2〜End Credits〜」として放送されてきたこの番組も、いよいよフィナーレを迎えることに。1年半に渡り番組をご覧いただき、どうもありがとうございました。スタッフ一同、心より御礼申し上げます。
万感の思いを込めて送る?最終回に取り上げた作品は、「ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜」(根岸吉太郎監督)。太宰治の小説「ヴィヨンの妻」を映画化したこの作品は、第33回モントリオール世界映画祭で最優秀監督賞を受賞。
ゲストは、今作の照明を務めた長田達也。1983年に照明技師となり、周防正行監督や矢口史靖監督作品の数々など、多数のフィルモグラフィを持つベテランである。
戦後の昭和という時代観、太宰文学の世界観を映像の中でどのように作り上げるのかが、今作の命題だったと長田氏は語る。
はたして長田氏は、どのようなアプローチでこの作品の照明を作り上げていったのだろうか?
◯ Chapter 1 −照明のプランニング−
宅間孝行(T):やはり脚本を読んだ段階で、照明のイメージを固められるんですか?
長田達也(O):脚本はもちろんすごく大事ですが、同様にキャスティングや衣裳、セットデザインなども、すべてが大事ですよね。だから、最初は形にとらわれないようにしています。脚本を読んだイメージで決めつけちゃうと、その光が作れなかった時にすごくうろたえちゃうんです。
T:衣裳は何となくわかるんですが、キャスティングでも光のイメージは変わるものですか?
O:どんな人を主役に据えて映画を盛り上げるか、映画を観てもらおうとするか?そういう視点で考えると、映画作りにおけるキャストは、監督の次に大きな存在だと思うんです。俳優さんから作品のテーマが見えてこなきゃ意味がないんですよ。その人たちの持つ素敵なところを引き出して、映像にしなきゃならないって思ってますから。
T:まさに、俳優にスポットライトを当てるということですよね。例えばシーン毎の照明を決める時に、どんな情報を手がかりに作られますか?
O:脚本に書かれた時代や時間の情報はチェックしますね。
T:この映画はほぼセットでの撮影ですよね?
O:そうなんです。だから日中のシーンを作る時は、そのセットでは東西はどこになるのかを考えて、それぞれに光を用意しなければならないんです。東から上る朝の光と、夕方の西日の光ですね。さらにシーンによっては、季節や昼夜の時間経過など、一日でいくつもの光を作らなきゃいけないこともあります。そういった意味でも、東西南北の情報は芝居を撮る上で本当に大事です。
T:映画を撮る上で何が時間がかかるかって、とにかく照明ですよね。カット毎に全部イチから作り直していくわけですし。
O:余計なことしてますよね(笑)
T:いやいやいや(笑)それで映像の世界観が全然変わって来ますよね。
O:あらかじめデザインして作れる美術セットや衣裳とは違って、俳優さんの動きを見ながら決めなければいけないという意味で、照明はいちばん最後の作業なんです。現場でやらなければいけないから、どうしても時間がかかりますよね。
◯ Chapter 2 −現場で決まる照明−
T:では、カット毎の照明についてうかがいます。まずは映画の冒頭、妻と子供が寝ている深夜の自宅に、窃盗したお金の返還を迫られた大谷が慌てて帰ってくる場面です。
O:浅野忠信さん演じる大谷が最初に家にダーッと入ってきて、引き出しをひっかき回す。そこは夜中で真っ暗なわけだけど、主人公の家であることもこの場面で説明しなければいけません。その後に松たか子さん演じる奥さんも出てくるけど、台本には“電気をつける”なんてト書きはないんですよ。だから、どこまで僕は暗い照明を作ればいいのか悩んだわけです。つい浅野さんにも聞きたくなるわけです、“どこで電気つけてくれますか?”って(笑)。でも、どこまでが暗がりでの演技なのかを話し合ううちに、“長田さん、だったらここで電気つけましょうか?”という話が出て来た。
この次のカットでは松さんが出てきますが、せっかくのいいお芝居が、暗くて見えないんですよ(笑)。そう根岸監督に伝えたら“え、見えないの!?”って慌てて、じゃあ芝居の流れでここで電気をつけるか・・・みたいに話を進んで行ったんです。
だから今回は、監督や役者さんたちとコミュニケーションしながらライティングを決められたのが面白かったですね。太宰治の原作を読んだ時の感覚というか、そのままを映像でどこまで表現できているのかが本当に難しくて、とにかく僕たち全員が悩んでたんです。デリケートな作品でしたよね。うまく行ったかどうかは、観客の皆さんに委ねるしかないですけど。
T:内面をほじくり返して行くような作品ですものね。
O:だから浅野さんや松さんたちには、何度もテストで演技していただきました。スタッフとキャスト全員で場面のイメージが共有できるように。
T:貧しくて新しい着物も買えない妻の佐知が、貰い物の着物を着て少女のように心を躍らせる場面がありましたが、あの場面はいかがでしたか?
O:佐知がうきうきして美しくなっていくのを、大谷が酒を食らってグチグチ責め立てる場面ですね。あれは照明をちょっと足して、それまでの佐知とは違う見え方を演出してあげたかったんです。ボロ屋なんだけど、そう見えないライティングにしなきゃいけないなと。
大谷が座っている縁側は明るいけど、その奥の佐知と子どもがいる寝室は暗いんですよ。これをそのまま撮ると、ちょっといじけた映像になって、彼女の内面が輝き出したような映像にはならない。そのバランスの試行錯誤の結果が作品に出ているかと思います。監督や映画をご覧になった方に、いいんじゃないかって言ってもらえるまでは、悩み続けるばかりなんですけどね。正解がないから大変だし、だから面白いっていう風にも思います。
T:もうひとつ、ギリギリのライティングだなあと思ったシーンがありました。妻夫木聡さん演じる青年・岡田が、酔っぱらった大谷を介抱するため、そのまま大谷の自宅に泊まりますよね。その日の明け方に、岡田が佐知への思いを告げる場面なんですが。
O:あれは本当に真っ暗な状況なんです。そして、大谷がすぐ近くで寝ているという緊張感もある状況でもあると。朝の光がうっすら出るか出ないかというタイミングだから、抱き合う二人にあからさまに朝の光が当たっていてもいけない。また影になる部分にも、いつもはかすかに照明を当てたりするんですが、ここは反射する光もないほどの暗さなんです。だから、松さんと妻夫木さんのリアクションの表情が、あざとくなく見える、そんな角度を探そうと。
そして、真っ暗だと言っても、奥に大谷が寝ていることは意識させないといけない。だから家の奥のふすまなどのディテールをかすかに出すことで、奥の部屋にいる大谷の存在も意識しましたよね。
◯ Chapter 3 −芝居と照明−
T:佐知を演じる松たか子さんの芝居に引きずられて、長田さんが照明を作ってしまったシーンがあると、ちらりと伺いましたが?
O:殺人未遂の罪で捕まってしまった大谷の弁護を依頼するため、かつての恋人である弁護士・辻の元へと佐知が訪れる場面ですね。辻は堤真一さんが演じられています。堤さんのセリフを受けての、松さんの堂々とした佇まいを見ている時に、ふとあることを思いついたんです。実はこの場面で、佐知は初めて赤い口紅を塗るんですね。その芝居を見ていて、唇をちょっとだけ、自然に強調するような光を当てたくなっちゃったんです。今までやったことがないので、不思議な思いつきだったんですけどね。監督やカメラマンも、もちろん松さん自身も、何か照明が変なことをしてるなあって思われたかも知れませんが(笑)、あの唇が特別の意味を持っている気がしちゃったんです。監督が唇の色をどうするかで迷っていたこともありますが、照明サイドからプラスαの提案をしてもいいかなと思って。
T:確かに、命をかけるくらい昔好きだった男性に、ひとりの女性として会いに行くというシーンだから、それを口紅に象徴しているとも考えられますよね。
◯ Chapter 4 −必要な資質−
O:人間的に明るくて軽いこと!(笑)何しろ人にサービスするのが仕事だから、それがどれだけ伝わったのかと。落ち込んで重い雰囲気になる必要なんてないんですよ、サービスしてるんだから。1〜2時間の間を、皆が楽しんだって言ってくれたらこれほどいいことはないし、すごく素敵なことに思えるんですよ。そういう時間を共有するためには、いろんなことを感じないとできないような気がするんですよ。
T:やっぱり映画が好きなことと、作ることが好きってこと。で、明るきゃ言うことないと(笑)
O:そう!明るくて軽いこと!英語で言えば両方とも“ライト”なこと!(笑)
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