撮影を終えられたいまの率直なお気持ちは?

私、山崎豊子さんの原作はもちろんのこと、ひとつの作品に6ヵ月以上の長い期間携わるという経験も初めてなんです。半年間、演じる役柄をどう見せていくのか、という難しさはありましたけど、これだけの期間、共演者やスタッフのみなさんとともに過ごしていると、自分が抱いていたイメージや、演じる以前に感じていたことを、また違う視点で見ることができるようになってきたり…。また、見てくださる方々の思いですとか、それぞれの解釈とかを聞くこともできましたので、ゆったりとした時間の流れで撮影ができるというのはとても幸せなことだな、と思いました。通常の連続ドラマですと、なかなかそういうことを感じることができないですから。
もしかしたら、こういう作品はもうないかもしれません。
そうかもしれないですね。でも、本当はこういうドラマを作っていくべきだと思いますし、実際、若い世代の方が、自分たちの国がどういう歴史をたどって、どういう風に経済が発展していったのか、というようなことを知るべきだとも思うんです。「ちょっと難しそうだから…」と思われた方も多いと思うんですけど、この作品には、そういった歴史的なこと以外に、人間の生きざまとか、不器用さとか、すべて詰まっていますから。真面目で一見何の変哲もない、変化もない作品だと思われてしまうかもしれませんが、それが日常であり、人生であると思うので、個人的にはこういうドラマが残っていってほしいなと思います。
今回の千里さんというキャラクターですが、演じていくうちに、
最初に思い描いていたイメージが変化していくようなことはありましたか?
今回は特に原作に忠実に演じたいと思っていて、ビジュアル的なことも含めて、山崎さんの作品にある行間とか、そういうものを大事にしようと考えていたんです。この作品は、他のシーンが“男の世界”じゃないですか。だから、私のシーンは、静寂とか間とか、行間を大事にしたいと監督も考えていらっしゃったと思います。
千里さんがストイックに陶芸に打ち込む姿はとても美しかったです。
陶芸シーンのご苦労もあったと思うのですが、いかがでしょうか?

練習のときに、腱鞘炎になるくらい練習しようと思ったんです(笑)。そのくらいの真面目さとかひたむきさは、役柄にも通じると思ったので、テープをグルグル巻きながら練習したのを今でもよく思い出します。人って、いつまでも限界を決めずにやれることってあると思うんです。最初に菊練りのシーンがあったんですけど、「菊練り3年」と言われているくらい時間がかかるものなんですね。なので、実際、撮影までは1週間しかなかったんですけど、「よし、1週間でやってやろう!」と決めて取り組み始めて…。そうしたら、凄く上手になったんですよ(笑)。そういう経験をしたときに、「人間というのは自分で限界を決めているんだな。人の力って凄いな…」って思いました(笑)。
思いの強さが不可能を可能にしたんですね。

そうなんです(笑)。やり方としては、毎日変わっていく土の工程を敢えて見ないでやったんです。見ているとダメなんです。「また失敗した…」と思うから。だから、陶芸教室のところにある石の「コバルトブルー」っていう文字をずっと見ながらやっていたんです。そうやっていて、あるときパッと手元を見たら上手にできていて(笑)。その一心不乱な感じって、この『不毛地帯』のテイストだと思うんです。今回は、そういうところからも役作りのヒントを得ていたような気がします。
そういう静かで一途な千里さんの姿は、壹岐正(唐沢寿明)という男性に対する思いにも
そのまま通じるものがあったと思うのですが…。

壹岐という人間がどうして千里にひかれたのか…そういう肩書き的な部分ですとか、外見的なイメージを抜きにしたとき、それはどこなんだろう、と考えたときに、やっぱり、奥さまの真面目さとかひたむきさに通じるところところがあったんじゃないかと思うんです。千里は現代的な女性であり、陶芸家であり、奥さまとは違うタイプの女性ですけど、和久井映見さんが演じた奥さまとどこか共通した部分がないと、壹岐とこんなに長く縁があるはずはないなと思って…。多分、この時代の人はこういう部分を多く持っていると思うんですけど、何か和久井さんと共通する、芯の強さみたいなものを少しでも出せたらと思っていました。
女性の登場人物は少ないですけど、みなさん、素敵でした。
そうですね。なかなかお会いする機会がなかったので、違うドラマを見ているかのように新鮮な気持ちでオンエアを見ることができました(笑)。個々に違う世界を生きているわけですが、ひとりの人として、生き方とかが美しいなと思えるような、不器用な姿が素敵だなと思っていました。
唐沢さんとの共演に関してはいかがですか?

唐沢さんとは、テレビドラマと『嗤う伊右衛門』という映画で2回共演させていただいているんです。唐沢さんはとても明るい方で、普段は冗談ばっかり言ってふざけているというイメージだったんですけど、今回見直しました(笑)。素晴らしい! 何が素晴らしいって、いつも同じ忍耐力と集中力を持ってフラットに演じていること。俳優として、それって一番大事だと思うんです。私、天才はいないと思うんです。努力していくしかない。自分のモチベーションを保ち続けて、それをフラットに演じていく、というのは凄く大事なことだと思うんです。唐沢さんは「こんなにセリフも多くてこんなに大変な仕事が自分に与えられるということは、何かのミッションみたいなものだと思っているから、与えられた仕事を全うするしかないんだよ。それしかねぇよ!」ってちょっとぶっきらぼうにおっしゃっていたんですけど、そのぶっきらぼうさっていうのは覚悟であって、凄く真っ直ぐに作品に向かっていくその姿は、本当に男らしいと思いました。「こういう昭和初期の不器用な男を唐沢さんがどう演じるんだろう?」って思っていましたけど、本当に素晴らしかったと思います。
この作品は、昭和という時代が舞台ですが、小雪さんにとっての昭和とは?

いまよりも真っ直ぐで正直に生きていた時代だと思います。いまの情報社会はさまざまツールを通してしか人間対人間のコミュニケーションが成立しないようになっていますよね。私、今回黒電話で話しているシーンが凄く多いんですけど、あのもどかしさとか、歯がゆさとか、上手くいかないところに人間の忍耐力とか、自分と向き合う時間が生まれてきたんじゃないかなって。無駄の中に意味があった時代なんじゃないかなと思います。
最後に、最終回を楽しみにしている視聴者の方に向けて、メッセージをお願いします。
とうとう最終回ですけど、みなさんそれぞれの終わり方で見ていただけると思います。私たちは原作を尊敬して、忠実に、本当に丁寧に取り組んできました。きっと、最終回も楽しんで見ていただけると信じています。壹岐正の最後を、見守ってあげてください。