■□□□ - 撮影がすべて終了したばかりですが、いまのお気持ちは?

 
凄く寂しいですね。最初は、もの凄く怖くて…お話をいただいて、「じゃあ、やりましょう」ってなった時、もちろん嬉しかったんですけど、全く知らない世界だし、僕自身も全くの素人ですから、怖かったんです。しかも相手が田村正和さんや西村雅彦さん、石井正則さん、小林隆さんという顔ぶれですし…。僕はドラマってほとんど見たことがないんですけど、「古畑任三郎」だけは多分日本一見ている、という自負があるので ( 笑 )、その中に自分が入っていくことを想像した時にもの凄く怖くなって…。初日の顔合わせの時も、いままでに経験したことがないくらいの緊張感が走ったりして、とても不安でした。でも、日が経つにつれてどんどん面白くなってきて、毎日刺激があって、終わりが見えてきたころにはホントに寂しくなってきました。なんだか、チームから離れていく、そんな気持ちですね、いまは。

■□□□ - 「終わってホッとした」ではなく「寂しい」という感じなんですね。
 
もちろんホッとしたんですけど、寂しい気持ちの方がずっと強いですね。




■□□□ - ドラマをやってみよう、と思った最大の理由は、「古畑」だったから、ということですか?
 
それ以外にはないですね。本人の役で出られるとしたら面白いな、って…それはもちろんこっちが勝手に思っていたことなんですけど ( 笑 )、「これだったら、ひょっとしたら面白いかもね」っていう話を家で友達としたりしていたんです。だから、これ以外には考えられなかったですね。

■□□□ - 先ほど、ドラマをあまりご覧にならないとおっしゃっていましたが、そんなイチローさんが何故「古畑」にはハマってしまったんでしょうか?
 
事件を解決していくストーリー、そこに至るまでのプロセスが面白いんですけど、1 回見たら全部わかっちゃうわけじゃないですか。でも、このドラマって…クオリティーが高いっていうのはもちろんあるんでしょうけど…家の中で音楽のように流していても、凄く気持ちのいいものだったんです。見ていなくても音は聞こえているような状態で、僕はこの「古畑任三郎」というドラマにずっと接してきたんですよ。でも、何故好きなのか、っていうのは、わからないんですよね。まだ答えが僕の中でも出ていなくて…。何なんでしょうね?ひょっとしたら、歌手の人が歌っていて、その声の質だったり、歌詞の内容だったり、リズムだったり、っていうこと以外に、「聴いてて気持ちいいな」っていう感覚ってあるじゃないですか。ああいう感覚に似ているような気がしますね。ただ、妻が凄く好きだったんですね、ミステリーとか謎解きものが。その影響もちょっとあったんですよね、実は。彼女は「刑事コロンボ」も大好きで、よく見ていたんですよ。

■□□□ - 三谷幸喜さんが新聞にお書きになっていたんですけど、イチローさんは松村達雄さんの回 ( 第 3 シーズン「古畑、風邪をひく」) がお好きだそうですね。
 
実は、一番見た回というのは、明石家さんまさんの回 ( 第 2 シーズン「しゃべりすぎた男」) なんですよね。あれはホントに面白くて、いまだに見てますよ。松村さんのお館様の回、っていうのは、村ぐるみでひとりを庇う、っていうあのストーリーが斬新な感じがして面白かったんですよね。




■□□□ - 今回の「フェアな殺人者」の台本をお読みになったとき、最初に考えたことは?
 
自分の言い回しってあるじゃないですか。本人役なので、果たしてそれを変えてもらえるものだろうか、って思いました。脚本家の方によっては、書いてある通りに読まなきゃダメだ、っていう方もおられると聞いていたので、「どうなのかな?」って。その辺は柔軟に対応していただいたので、助かりましたね。ただ、台本を見ただけで絵をイメージすることが僕には出来ないので、「ホントに大丈夫なのかな?」っていう感じはずっとありましたね。でも、スタッフの方々に気を遣っていただいているのはヒシヒシと伝わってきたので、それにはとても感謝しています。

■□□□ - 台本を読んだとき、イチローさんに非常に高いレベルを要求している本だと思ったのですが…。
 
いや、僕はそんな風には全然思いませんでした。きっと、素人でも出来るように気を遣っていただいてるんだろうな、という思いで読んでいました。

■□□□ - 実際に、田村正和さんと対峙して演技されたわけですが、そのときはどんなお気持ちでしたか?
 
やっぱり、あれだけ見ていると、古畑さんが近づいてくるのを見ただけでシビれましたよ。感動しました。それは、今泉さんや西園寺さん、向島さんの時もそうだったんですけど、僕にとってはテレビの中の世界でしかなかったわけですから。ちょっと震えましたね。

■□□□ - 一緒にお芝居をされてみて、感じたことは?
 
 「おお、古畑だ!」って、いつも思っていましたよ ( 笑 )。一番ビックリしたのは…これは僕にとって非常にありがたいことだったんですけど、やっぱり嫌なものだと思うんですね、違う畑の人間がヒョコって現れて…。「ふざけんな!」って思うじゃないですか、普通は。僕だったら思うんですよ ( 笑 )。僕の世界に素人がやってきて、いくら真面目にやるつもりだとは言っても、それは馬鹿にしたくもなると思うんです。でも、そういう雰囲気が一切なかったんですよね。そこがホントに嬉しかったし、器の大きな方たちなんだな、って思いました。そのことに一番救われましたね。

■□□□ - 現場は全く違和感もなく進んでいたと思いますよ。
 
僕は、ずっとスタッフの方に聞いていました。「どうですか?大丈夫ですか?」って。「大丈夫ですか?」しかないんですよ ( 笑 )。これだけ人気も歴史もある番組じゃないですか。それを、僕が出ることによって台無しにするわけにはいかない、っていう思いでした。 ( 演技が ) いいかどうかっていうことはあり得ないので、大丈夫かどうか、っていうことだけを気にしていましたね。本音かどうかわからないですけど、「全く問題ありません」というようなことを言っていただけたので、随分勇気付けられました。




■□□□ - 最初の顔合わせ・本読みのとき、すでにセリフを覚えていらっしゃいましたよね。
 
台本をもらったその日から、自分なりに何としても覚えていかなくてはいけない、という思いがあったんです。それがおそらく唯一、僕が見せられる礼儀というか誠意だと思ったので、それだけはやっていきたかったんです。ただね、役者さんたちを前にすると、違う緊張感みたいなのが生まれてきたし、1 回、頭の中が真っ白になると、もうどうしようもなくなっちゃって…。でも、本読みの段階で本を見ない、詰まってもいいから本物の人たちの声を聞いて、自分にどういう表現が出来るのか、っていうことを試したかったんです。監督にも確認したら「それでいいですよ」とおっしゃっていただいたので。僕にとっては、本を見てしまったら、それは台無しになる行為だったんです。

■□□□ - あの日は、小林さんが JR の事故の影響で遅刻してしまい、もの凄く申し訳なさそうに入ってきたところから始まりましたよね。
 
あれは、僕にとってはありがたかったですね ( 笑 )。

■□□□ - 今回は、いろいろな場面で見どころも満載ですが、イチローさんご自身が特に印象に残っているシーンは?
 
そうだなぁ…。もちろん、最後に古畑さんとやり合うところは、やっていても凄くシビれましたし、僕もああいう風に気持ちを入れられたっていうのは、田村さんという役者さんの力なんでしょうね。あんな風に自分が感情を入れて出来るなんて、想像出来なかったですよ。どこか照れくさかったり、自信がなかったりするはずじゃないですか。100 メートル走るときに、速い人と走ると自分もちょっと速くなる、みたいな、そういう力を持っているんでしょうね、役者さんというのは。きっと、どの場面も僕にとっては思い出に残るんでしょうね。「殺し」…これは「ゲーム」なので「殺し」ではないですけど、日常生活の中では絶対にあってはいけないことですし、ドラマの中とはいえ、ああいう経験をさせてもらったことも印象に残っています。パトカーが自分の前に来て乗り込む時なんか、本当に自分がやってきたことを回想して、凄く辛い気持ちになったりしましたから。

■□□□ - 野球場のシーンで、田村さんとイチローさんが同じ画に映っている、というだけで凄いと思いました。
 
実は、このお話をいただいてから、試合で守っているときなんですけど、僕は外野手なので、球が飛んでこないことも多少…というか結構たくさんあるので ( 笑 )、グラブで口を隠しながら「古畑さん」って言ってみたりしていたんです ( 笑 )。まだ台本も上がってない段階で、内容もわからない状況だったんですけど、「古畑さん!」ってこっそり練習していました ( 笑 )。僕は、毎年、野球のパフォーマンスをする中で、個人の目標っていうのがいくつかあるんです。それが打つことでは最低でも一番打者として打率 3 割、ヒット 200 本、30 盗塁、100 得点というのが、具体的に挙げられる目標なんです。必ずクリアしたい数字。で、ゴールドグラブというのがそれに加わるんですけど、これを僕は、4 年間過去に続けてきていて、ことしが 5 年目だったんですね。ことしそれをクリアした時に、「よかった!」って思ったんですけど、その「よかった」って思った括りのひとつに、「これで『古畑』に何とか出られる」っていうのもあったんです ( 笑 )。これがひとつでも欠けてしまうと、当然ファンの目というものがありますから、「イチロー、何やってんだ。ドラマなんかに出て…」って絶対なるわけじゃないですか。そのために、絶対に必要な数字だったんです ( 笑 )。ことしは、残りの 2 試合 3 試合の時点で、打率が一番危なかったんですよ。. 298 とか、そのあたりだったんですよね。で、あと 2 試合、というところで 3 本ヒットを打って、次の日にヒットが出なくても 3 割は確定、というシーズンだったんですよ。あの瞬間は、ホントにホッとしましたよ。もうひとつ、前半戦終了時点でオールスターに出場すること、という条件もあったんですけど、それを全部クリアすれば、何とかドラマに出ても許してもらえるじゃないですけど、一応、権利を得られるのかな、っていう風に過ごしたシーズンでもあったんですよね ( 笑 )。なかなか、いい刺激を貰いました。

■□□□ - では、次にドラマ出演のオファーが来ても…。
 
そんなことはあり得ない話ですよ ( 笑 )。このドラマは、テレビの世界でも最高の番組なわけじゃないですか。普通に考えると、いろんなことをこなしていって、「ああ、『古畑』に出られたらいいな」っていう順番のはずなんですよね、多分。それをいきなり経験させてもらって、次なんてあるはずがないですよ、本当に。今泉さんのセリフじゃないですけど、これは一生の宝物にしたいと思っています。

■□□□ - とはいえ、役者の仕事に惹かれた部分もあったのでは?
 
僕は、今回本人を演じたわけですけど、確かにいままで知らなかった世界で、凄く楽しいな、っていう風には思いました。作品を作り上げていく、という感覚が僕の中にも途中から生まれてきて、「いいな」って思いましたね。




■□□□ - 完成したものが楽しみですね。
 
いや、多分僕は、オンエアの日は見られないと思いますよ。見る自信はないですね。モニターでチェックさせていただいているので、なんとなくイメージは出来るかもしれないですけど、でも…人には見てもらいたいんですよ ( 笑 )。

■□□□ - こっそりひとりで?
 
それしか出来ないでしょうね。ひょっとしたら、1 回も見ずに ( 笑 )。出来ることなら見たいですけど、いまの段階で見る自信はないですね。

■□□□ - ご自身の演技をモニターでチェックされているときは、どう思われましたか?
 
僕、自分の声を聞いたり、映像で見たりすることって苦手なんですよね。これまでも自分が受けてきたインタビューとかは、見たくなかったんです。だから、その時間は、意図的に外に出てみたり…。テレビが近くにあると見てしまって、見始めてしまうと止まらない、みたいなところもあるので、それだったら見られない状況を自分で作ろう、という感じでいままでやってきたので。だから、1 月 4 日は、用事を作って外でメシ食ってるかもしれないですね ( 笑 )。


 

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